JKA補助事業(2021年度)による研究紹介
研究テーマ:Siをドープした正方晶ジルコニアの作製
事業テーマ:2021年度 中温作動固体酸化物型燃料電池に利用可能な新規固体電解質の開発と
低コスト長寿命燃料電池システムへの展開(2021M-140)
研究担当者:老田知樹(B4),道行大将(M1)
指導教員:亀島欣一
研究目的
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は,クリーンで高効率な発電方法として注目されている.現状のSOFCは800〜1000℃で運用されており,ステンレス部材の劣化とクロムの析出が課題となっている.そのため,500℃程度の中温域で作動するSOFCシステムが望まれている.本研究では,ジルコニアをベースとして種々の金属イオンをドーピングし,特にSiをドープした系について,金属アルコキシドを用いたゾルゲル法で,正方晶安定化ジルコニアを作製することを目的とした.
実験方法
Siドープジルコニアは,ジルコニウムイソプロポキシドを主原料にしたゾルゲル法により作製された.以下,作製法の一例を示す.
1. Si源としてTEOS,Zr源としてジルコニウムプロポキシドを所定量秤量し,2プロパノールでメスアップした希釈溶液を調整し,密閉条件で室温下にて1時間撹拌した.
2. 反応抑制剤としてTEA,アセチルアセトン,あるいは酢酸を用い,それぞれ所定濃度の水溶液を調整して,アルコキシドに対して各比率となるように滴下し,同じくアルコキシドに対して各比率となる量のイオン交換水を加え,密閉条件で室温下にて1時間撹拌し,ゾル溶液を得た.
3. 得られたゾル溶液を25℃の恒温槽中で7日間熟成し,ゲル溶液を得た.
4. 得られたゲル溶液を70℃の恒温槽で熟成し,35日後に乾燥が進んだキセロゲルが得られた.
5. 得られたキセロゲルは電気炉を用い,700〜1000℃で3時間熱処理された.
6. 熱処理後の各試料はXRD,走査型電子顕微鏡 (SEM)を用いて,分析・観察された.
結果と考察
(1) 反応抑制剤にアセチルアセトンを用いた試料
アセチルアセトンを反応抑制剤に用いた作製された試料(Zr0.95Si0.05O2)の固化体を700℃で熱処理した.熱処理後の試料は形状が崩れ,一部は黒色化した.これはアルコキシドの一部が炭化して残存したためと考えられる.熱処理後の試料のXRDパターンを図1に示す.
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得られた試料の結晶相は斜方晶ではなく正方晶であった.この結果は,ゾル-ゲル法で作製された既報のZrO2やZr0.95Si0.05O2の結果と一致した.即ち,室温〜70℃で得られたゲル体はアモルファスであったが,熱処理により単斜晶を経由せずに直接正方晶が生成した.
この試料の微構造観察の結果を図2に示す.微構造観察の結果から,熱処理後の試料は数 μmの粒子からなる凝集構造をもち,かつ比較的粗な構造であることが分かった.
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(2) 反応抑制剤に酢酸を用いた試料
酢酸を反応抑制剤に用いた試料(Zr0.95Si0.05O2)の処理による形状の変化を図3に示す.
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次に,700〜1000℃で3時間熱処理された試料のXRDパターンを図4に示す.アセチルアセトンの結果と同様に正方晶ジルコニアに帰属される回折パターンを示した.しかし,熱処理温度が950℃の試料では単斜晶ジルコニアに帰属されるピークが観察され,1000℃の試料では単斜晶相のみが観察された.従って,電解質として利用するためには熱処理温度は900℃までとする必要があることが分かった.
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今後の展望
本研究成果をふまえて,500℃程度の中温域で性能を発揮する燃料電池に利用可能な固体電解質を開発することができれば,これをエネファームなどの実機に用いることで,低コストで長寿命なオンデマンドの燃料電池ステムを構築できる.この様な燃料電池を普及させることで,温室効果ガスの排出抑制に大きく貢献することが見込まれる.
謝辞
本研究に対しましてご支援頂きました公益財団法人JKAに深く感謝申し上げます.
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