分子はエネルギー変換装置

私達の身の周りにある「分子」は、とても小さいものですが、その一つ一つが、エネルギー変換装置として働くことができるすごい力を持っています。

一番分かりやすい例が、「蛍光色素」です。

教科書にマークするだけで、勉強した気分を味わうことのできる魔法のペン(蛍光ペン)は、紫外光の光エネルギーを吸収して可視光の光を放出しています。分子の形を工夫することで、いろいろな色の光を放出するように微調整することができるところが、分子装置の魅力です。英語の資料ですが、蛍光ペンのインクの分子構造が”The chemisty of highlighter colours“として紹介されているので、一度チェックしてみてください。

ここで紹介されている分子は、「光エネルギー → 光エネルギー」のエネルギー変換装置ということができます。紫外光のような短い波長(=高エネルギー)の光エネルギーを、それよりも長い波長(=低エネルギー)の光エネルギーに変換する、波長変換装置ということもできます。

また、分子の構造に注目すると、ベンゼン環(芳香族環)が沢山入っています。なぜ、芳香族化合物が蛍光ペンに使われるのか?あるいは、分子の形と蛍光とはどういう相関があるのか?は、大学で勉強するとバッチリわかります。それがわかれば、皆さんは、「光エネルギー変換分子装置の設計と制作」を自在にできる技術を手に入れることができるのです。

「ちなみに」ですが、ご存知『エネルギー保存の法則』がありますから、高いエネルギーの光を低いエネルギーの光(紫外光から可視光)へと変換することは容易であるのに対し、低いエネルギーの光から高いエネルギーの光(赤外光から可視光)へと変換することは、簡単なことではありません。しかし、低いエネルギーの光子を2個使うことで高いエネルギーの光子を1個生み出すことができれば、今まで有効利用することが難しかったエネルギーを上手に利用できるため、大学が行う研究開発の主戦場の一つになっています。エモくない?

分子装置は、光エネルギーの変換(光エネルギー ⇄ 【分子装置】⇄ 光エネルギー)だけでなく、様々なエネルギーの変換に利用可能です。

光エネルギー ⇄ 【分子装置】⇄ 電気エネルギー
を考えれば、真っ先に「太陽電池」が頭に浮かびますし、皆さんのスマートフォンに利用される有機EL素子も、原理は全く同じで、エネルギー変換の向きが違うだけです。これらのエネルギー変換効率のカギを握るのが分子装置なので、皆さんが大学に入学し、分子装置について学び、研究することで、エネルギー問題を解決し地球環境を守る仕事へとつながって行くと言うことができます。

有機太陽電池について勉強するなら東京大学 松尾 豊 先生の書かれた「有機薄膜太陽電池の基礎」を一読することをおすすめします。そして、BürckstümmerさんのTED Talk(印刷できてフレキシブルな有機太陽電池で建物を変えよう!)を観てみてください。実際に有機太陽電池が世界を変えはじめていることを実感できるかと思います。また最近、太陽電池分野で大きな盛り上がりを見せているペロブスカイト太陽電池に関して、は、「ハイブリッド型ハライドペロブスカイト太陽電池の最新の進展」(Gratzel et al, Material Matters 2016, 11, 3の日本語版記事)で勉強するのが良いでしょう。そして、大学で研究している研究者の熱い思いを、Chem-Stationのこちらの記事で感じて頂ければと思います。また、有機ELについてでしたら、JST-ERATOの安達分子エキシトン工学プロジェクト@九州大学をご覧頂くのが良いかと思います。ホームページを見ているだけで、「ニャ〜!」と叫びたくなること間違いなしです。

大学で学び研究することは、ハッキリ申し上げて、高校までとは全然違います。めちゃくちゃ面白いし、のめり込む価値があります。(ただし、のめり込まないと、なんにも得られません。そこに早く気づくか気づかないかで、随分と違いが出るかと思います。余談ですが。)

そして、高口研では、太陽電池の一歩先を目指して、
光エネルギー ⇄ 【分子装置】⇄ 化学エネルギー
について研究しています。

具体的には、太陽光のエネルギーを利用し、水(H2O)を原料に水素(H2)を製造するための「分子装置」を研究・開発しています。さらには、二酸化炭素(CO2)から炭素燃料(HCOOHやCH3OH)、窒素(N2)と水(H2O)からアンモニア(NH3)と酸素(O2)などについても、挑戦を続けているところです。

こうした分野は『人工光合成』と言われ、地球温暖化の問題を解決へ向けた、低炭素社会実現のために必要な技術であることから、大学・民間企業を問わず、今、世界中で多くの研究機関がこの研究を進めているところです。そして、『人工光合成』に使われる『光触媒』(=光エネルギーで物質の化学変換を行う触媒)は、今、最も注目される研究分野の一つとなっています。しかし、『光触媒』の多くはTiO2に代表されるような無機材料であり、「分子装置」で光触媒を組み立てようとしている研究チームは、ごく限られています。下には、無機光触媒を利用した水の光分解(水素と酸素の泡が発生している)の動画を示しました。

こんなことが「分子装置」でできるようになれば、世の中が変わります。なぜなら、植物の行う光合成の仕組みを勉強すれば分かる通り、水から水素を作る程度の単純な反応であれば、無機材料で可能ですが、より複雑な物質変換を考えた場合には、必ず、「分子装置」が必要になると考えられるからです。そして、植物に負けない「光エネルギー⇄化学エネルギー」変換を目指して、カーボンナノチューブを利用した分子装置を開発しているのが、岡山大学高口研究室ということになります。なお、植物の光合成の仕組みを正確に知るために、光合成タンパクの分子構造を調べるといった研究に関しては、岡山大学異分野基礎科学研究所(岡山大学理学部)の沈先生の研究グループが世界のトップを走っておられます。バイオの視点から光合成に挑戦したければそちらがオススメす。高口研では、そうした研究から得られた知識を分子装置の設計に活用し、高性能な光エネルギー変換のための分子装置を開発することを目指しています。

せっかくのオープンキャンパスの機会です。実際に、大学・大学院で研究・開発を行っている先輩に、どしどし質問して、「分子装置」の面白さや可能性を感じてください。そして、もし、興味を持ってくださったら、是非とも岡山大学に進学し、一緒に研究・開発をできればと思います。

そんな日が来ることを楽しみに。

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【おまけ】
本文中では触れませんでしたが、「分子」のエネルギーを変換する機能は、センサーに利用することもできます。そして、センシングやイメージングも高口研の重要な研究ターゲットです。以下に、高校生の皆さんが楽しめそうな実験のヒントとなる英語論文を4つ紹介します。皆さんが、岡山大学環境理工学部に進学すると、学生実験で、こうした実験をエンジョイできます!ご期待下さい!

  1. コーヒーからカフェインを取り出そう!
  2. アスピリンを使って飲料中のカフェインの濃度を定量しよう!(蛍光を利用したセンシング)
  3. カフェインを原料にして蛍光分子を合成しよう!(化学発光に使える蛍光分子の合成)
  4. 化学発光に使うための分子合成:ハロゲンが入っていないのでオススメどすえ!

注意1:リンク先の論文は、岡山大学学内からネットに繋げば、無料でダウンロードすることができます。高校からですと難しいかもしれません。もしご興味があれば、連絡ください。
注意2:論文は英語で書かれていますが、めげずに読んでみよう。海外の研究者の論文を読み、また、自分の研究を海外へ発信するために、英語を読んだり書いたりする腕前は、どうしても必要です。

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【おまけ2】
熱エネルギー ⇄ 【分子装置】 ⇄ 電気エネルギー
については、本文中で触れませんでした。水蒸気タービンを動かすほどの高熱ならば、発電機として利用できますが、人間の体温程度の熱で発電できれば、たとえば、体内に埋め込むペースメーカーや人工心臓の電源として利用できる(電池が不要になる)と期待されています。カーボンナノチューブは、こうした熱電発電にも利用できることが分かっており、実用化が期待されています。一例として、積水化学のホームページおよび産総研のホームページを紹介しておきます。高口研でも、将来、太陽光の光エネルギーだけではなく、熱エネルギーも同時に利用することで、エネルギー変換効率を究極まで高めた「分子装置」の開発を夢見ています。

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