(このページは第1回の講義の参考資料です)
10年後、あるいは、20年後のこの国の形を決めるのは、誰だと思いますか?
今日、大学生の諸君に話をしたいのは、まさにこのことです。諸君は、今、20歳前後で、10年後はアラサー、20年後はアラフォー。すなわち、10年後・20年後のこの国を支える主役となる世代です。けれども、現状では、主役たる諸君が、10年後・20年後のこの国の形を決めることにはなっていません。
では誰が決めるのかというと、いわゆる「偉い人」が集まって、話し合いで決めていると言っても良いでしょう。これは、それほど悪い仕組みでは無いかとも思いますが、一点だけ問題があるとすれば、その話し合いに、肝心の「若い世代」が入っていないという点です。
イマイチ、なんのこっちゃピンと来ないかもしれません。けれども、諸君は、政府が、今現在、どういった話し合いをしていて、日本の将来をどのように持っていこうとしているのか?について、ちゃんと知っていないといけないのではないかと思います。そして、自分たちなりの意見を発信しなくてはならないのでは無いでしょうか?だって、諸君が、働き盛りの時、あるいは、子育てをする時、今話し合われている内容が、もろに関係してくるのですから。
そうした観点も含め、『水素燃料電池ロードマップ』(2016年3月版)を紹介します。
水素・燃料電池ロードマップ概要(改訂版)をダウンロードして見てみて下さい。
日本は、これからの20年間、諸君の好むと好まざるにかかわらず、「水素社会」の実現を目指して大きく舵を切ることになります。そのために3つのフェーズが設定されており
〈フェーズ1〉水素利用の飛躍的拡大:家庭用燃料電池を普及させるとともに燃料電池自動車・バス・フォークリフトを普及させて水素エネルギー産業が成り立つ基盤を作る。(2020~30年に向けた目標設定)
〈フェーズ2〉水素発電の本格導入と大規模な水素供給システムの確立:水素を大量に使って電力を大量に供給する「発電事業」を成立させる。そのための水素は、価格を優先させ、輸入でも構わない。(2030年に向けた目標設定)
〈フェーズ3〉トータルでCO2フリーの水素供給システムの確立:低環境負荷で水素を製造する技術を確立し、CCSなどとも組み合わせてトータルでCO2フリーの水素供給システムを確立することを目指す。(2040年に向けた目標設定)
となっています。個人的に気になるところは
- まずは「水素」を基盤とした産業の発展を優先させる。問題となるCO2削減については、今後の技術開発に期待する。という目標設定のあり方は、資本主義社会においては、理にかなった効果的な手法と思われます。が、だからこそ、肝心の「低環境負荷で水素を製造する技術」開発は間に合うのか?についてしっかりとウォッチしていかないと、こんなはずじゃなかった、に成りかねない。
- CCSというのは、Carbon dioxide Capture and Storageの略であり、排出されたCO2を大気中に出る前に回収し、地中深くの安定な地層に埋めてしまえという方法だけれども、その方法自体、本当に問題ないのだろうか?特に、(例え、国外の安定な地層を利用するとしても)日本が率先して開発・利用するべき技術なのだろうか?
諸君はどう感じたでしょうか?そして、これからどう行動するのでしょう?
私は、化学者ですから、こうなったら「低環境負荷で水素を製造する技術」を意地でも実現してやらないと、日本のこれからの20年が無駄になってしまうと、心底、心配しております。
この国は、着実に、このロードマップに従って動いています。諸君も、それを見越して動かないと、諸君が本当に望むのとは違う未来が、あれよあれよと近づいているかも知れないのです。
ちなみに、以下に、このロードマップ作成に当たって、重要な役割をした会議の委員と所属を記載しておきます。持続可能な社会というと、とても分かりやすいように感じるかもしれませんが、中身は非常に複雑であることが、よく分かると思います。
ただ、言えることは、20年後の問題解決には、必ず、「技術革新」が必要で、今ある技術で最適解を導く化学工学よりも、全く新しい技術を創造する「化学」が求められている。ということです。
水素・燃料電池戦略協議会 委員名簿(あいうえお順)
- 有賀 敬記 大陽日酸(株) 常務取締役
- 市江 正彦 (株)日本政策投資銀行 取締役常務執行役員
- 上羽 尚登 岩谷産業(株) 取締役副社長
- 内田 幸雄 JX 日鉱日石エネルギー(株) 取締役副社長執行役員
- 小川 洋 福岡県知事
- 奥平 総一郎 トヨタ自動車(株) 専務役員
- 柏木 孝夫 東京工業大学 特命教授【座長】
- 上地 崇夫 千代田化工建設(株) 常務執行役員
- 亀山 秀雄 (一社) 水素エネルギー協会 会長
- 北村 秀夫 (株)東芝 代表執行役副社長
- 久德 博文 大阪ガス(株) 代表取締役副社長執行役員
- 久米 雄二 電気事業連合会 専務理事
- 倉田 健児 (独) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 副理事長
- 崎田 裕子 ジャーナリスト・環境カウンセラー NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット 理事長
- 佐々木 一成 九州大学 次世代燃料電池産学連携研究センター長
- 髙田 廣 川崎重工業(株) 代表取締役副社長
- 中尾 正文 旭化成(株) 取締役上席執行役員
- 中畔 邦雄 日産自動車(株) 執行役員
- 広瀬 道明 東京ガス(株) 代表取締役副社長執行役員
- 福尾 幸一 本田技研工業(株) 常務執行役員
- 馬渕 洋三郎 三菱重工業(株) 執行役員
- 吉田 守 パナソニック(株) 常務取締役
- 渡辺 政廣 山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター長
水素・燃料電池戦略協議会 ワーキンググループ委員名簿(あいうえお順)
- 穴水 孝 東京ガス(株) 燃料電池事業推進部長
- 今村 修二 福岡県 商工部長
- 今村 等 大陽日酸(株) 水素プロジェクト部長
- 臼井 健敏 旭化成(株) 先端エネルギー材料開発センター事業企画グループ長
- 遠藤 英樹 千代田化工建設(株) 水素チェーン事業推進ユニット GM
- 小原 英夫 パナソニック(株) エネルギーシステム開発室長
- 亀山 秀雄 (一社) 水素エネルギー協会 会長
- 河合 大洋 トヨタ自動車(株) 技術統括部担当部長
- 小林 由則 三菱重工業(株) 燃料電池事業室長
- 斎藤 健一郎 JX日鉱日石エネルギー(株) 研究開発企画部長
- 佐々木 一成 九州大学 次世代燃料電池産学連携研究センター長
- 田畑 健 大阪ガス(株) 商品技術開発部長
- 玉越 茂 (株)日本政策投資銀行 ソリューション企画室長
- 永田 裕二 東芝燃料電池システム(株) 取締役
- 西村 元彦 川崎重工業(株) 水素プロジェクト部長
- 橋本 道雄 (独) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー部長
- 宮崎 淳 岩谷産業(株) 常務執行役員水素エネルギー部長
- 森 春仁 日産自動車(株) EV システム研究所長
- 守谷 隆史 (株)本田技術研究所 第5技術開発室 上席研究員
- 山中 芳之 電気事業連合会 技術開発部副部長
- 渡辺 政廣 山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター長
CO2フリー水素ワーキンググループ 委員名簿(あいうえお順)
- 石山 一弘 東北電力(株) 企画部 部長
- 出原 大輔 東レ(株) 先端材料研究所 主任研究員
- 伊藤 秀明 (株)日本製鋼所 研究開発本部副本部長
- 臼井 健敏 旭化成(株) 研究開発センターエネルギー材料G 主席研究員
- 遠藤 英樹 千代田化工建設(株) 水素チェーン事業推進ユニットGM
- 大平 英二 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素グループ 主任研究員
- 岡崎 健 国立大学法人 東京工業大学 特命教授
- 桑山 仁平 富士電機(株) 発電・社会インフラ事業本部 スマートコミュニティ総合技術部 主席
- 河野 龍興 東芝(株) 次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム 担当部長
- 小島 康一 トヨタ自動車(株) 技術統括部 主査
- 坂田 興 (一財)エネルギー総合工学研究所 プロジェクト試験研究部長
- 柴田 善朗 (一社)日本エネルギー経済研究所 新エネルギー・国際協力支援ユニット 新エネルギーグループマネージャー研究主幹
- 正代 尊久 (株)NTT ファシリティーズ スマートビジネス本部 スマートビジネス部長
- 辻村 拓 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所 水素キャリアチーム長
- 中島 康広 岩谷産業(株) 技術・エンジニアリング本部 プロジェクト部 部長
- 西村 元彦 川崎重工業(株) 技術開発本部 水素チェーン開発センター 副センター長
- 能見 和司 九州電力(株) 経営企画本部 副本部長
- 林 勝 (株)ユーラスエナジーホールディングス 国内事業企画部長
- 和久 俊雄 JX エネルギー(株) 新エネルギーカンパニー水素事業推進部 部長