高口研では、実験研究をスタートする際に、まず、一番始めにカラムクロマトグラフィーを習得していただくこととしています。カラムクロマトグラフィーのテクニックについては、このページの最後にリンクを貼ったHPで解説されていますので、それをご覧いただければOKかと思いますが、ここでは、なぜ、カラムクロマトグラフィーを習得することが大切なのかについて、説明を加えておきます。
有機化学において、一番大切な実験技術は、分離精製技術といえると思います。有機合成反応では、試薬一つ一つの純度が、目的物の収率に大きく影響を与えますし、新規化合物の物性を調べたり、薬理活性を調べたりする時、その化合物の純度の高さが、研究の格を決めると言っても過言ではありません。また、たとえ反応を失敗しても(=目的物が得られなくても)、しっかりと分離精製して、何ができたのかをはっきりさせることができれば、実験は失敗ではなく、むしろそこから新発見が得られることさえあります。したがって、分離精製技術の習得こそが、化学者の第1関門ということができるのです。
分離精製技術には、いろいろな方法があります。再結晶・蒸留・カラムクロマトグラフィーなどは古典的な方法です。実験室スケールであれば、分取用の液体クロマトグラフィーも強力なツールとなっています。中でも、WCC(wet column chromatography)は、カラムの太さ、シリカの量、溶媒、流速など、分子の性質と実験の原理をもとに、考察し工夫をする、化学実験の基礎が詰まっており、これを習得することで、今後、合成反応や物性評価の実験を行う際に、自分なりに創意工夫を凝らすことができるようになるという利点があります。
そもそも、TLCで分離可能な化合物は、カラムクロマトで分離精製できるはずです。分離できなければ、実験のどこかに修正すべき箇所があるはずです。それがどこかを考えて工夫をすることを繰り返すと、有機化学の実験における、濃度の感覚や、溶媒の感覚、化合物の性質の感覚など、教科書では得られない肌感覚が身に付いてきます。これが、実験研究に非常に重要で、カラムクロマトに真面目に取り組んだ人と、そうでない人とでは、実験のセンスにずいぶんと違いがあるように思います。
実験のセンスというのは、生まれ持ったものではなくて、カラムクロマトと向き合った時間で決まるものとさえ思うのです。
センスを磨くという意味で、カラムクロマトの素晴らしいところは、分離精製がゴールでは無いところです。上でも述べましたが、理屈ではTLCで分離可能な化合物は、十分な量のシリカゲルを使い、条件を整えて、長い時間を使えば、必ず、分離精製できるはずです。逆に、短時間で実験を終わらせようと、シリカの量を減らし、流速を速くすれば、分離は悪くなります。カラムクロマトにおいて、実験時間と分離精製はトレードオフの関係にあるということができます。だから、世話のやける有機化学実験において、時短のテクニックを学ぶ、また、コツを掴む、という意味でも、カラムクロマトは、大いに役立ちます。平たく言えば、カラムの上手な人は、有機化学の実験全般が上手ですし、長時間実験室にダラダラ居ることもありません。そして、カラムの上手い下手は、どれだけ、カラムを経験し、工夫しながらコツを掴んだかで決まると思います。
だからこそ、有機反応や物性評価の実験に入る前の基礎として、カラムクロマトを習得していただきたいのです。指示されたとおりにやってみて、分離できればOKではなく、実験に何時間かかったか?もっと短くできないか?を考え、工夫をし、失敗を重ねながらセンスを磨いていただきたいと思います。
分離精製の方法は、カラムクロマトだけではありません。再結晶や蒸留、分取用の高速液体クロマトも便利で強力な方法です。実際に、実験研究を進めていく中で、みなさんは、こういった分離精製の選択肢の中から、最適なものを選べば良いわけですが、それでも、カラムクロマトの習得にこだわっているのは、このセンスを磨くという効果を大切に考えているからです。そして、カラムクロマトが最適の選択肢になりうるにもかかわらず、腕が悪いということで選択肢になりえないなどという残念な状況を防ぐためにも、ぜひ、カラムクロマトには、じっくりと、腰を据えて取り組んでいただければと思います。
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カラムクロマト実験操作解説HP
- 実験テクニックのまとめ作ろうぜ@化学板Wikiのカラム・TLCのページ
- 北大 伊藤 肇 先生のかっこいいビデオ
- おなじみ京都大学化学実験操作法より
- 心洗われるMIT Digital Lab Techniques Manual:これが一番オススメのビデオかも。ただ、はじめと最後に出てくるラボコートの袖が長い…
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注:フラッシュカラムには、フラッシュカラム用のメッシュの細かいシリカゲルを使います。