・多くの場合、「うまくいかなかった」=「期待した結果が得られなかった」
卒論や修論を控えた時期になると、「うまくいかないや〜」と落ち込んで悩んでいる学生さんも多いのではないかと思います。ゼミでも、結果、失敗でしたと発表される学生さんがいますが、そもそも「失敗」とか「うまくいかなかった」とは、何でしょうか?
多くの場合、「うまくいかなかった」=「期待した結果が得られなかった」ということなのかな?と思います。
・期待した結果が得られなくても、落ち込む必要はありません。
自分の予想した通りの結果が出ないと、実験失敗したわ〜と思ってしまいますが、自分の仮説が間違っていただけで、この場合、結果はしっかりと出てます。
例)化合物Aに化合物Bを作用させたら、目的の化合物Cができるはずだ〜(期待していたこと)
実験をしてみて、化合物Cはできなかった。そのかわりに化合物Dができちゃった(期待したことと異なる結果)
これ、うまくいっていないわけではないのです。化合物Aに化合物Bを作用させたら、化合物Dができることがわかった!と胸を張って良いと思います。逆にいうと、化合物Aに化合物Bを作用させるということをした人が過去にないからその実験をしたわけです。すごい現象でなかったにしても、誰も報告していない新しいことを見つけているといえるでしょう。
実験をする前から結果がわかっている人はいません。たとえ仮説と違った結果が得られたとしても、「実験で仮説を検証」という部分がしっかりとできているわけです。これはすごいことで、きちんと研究は進んでいます。
ですから、失敗しましたではなく、期待した化合物Aではなく、化合物Bができることがわかった!とか反応しないことがわかりました。とドヤ顔で自信をもって報告しよう!
・誰もやったことがないことをしているのだから、期待通りになることなど少ないのだ。
大学の学生実験などは、実験操作などの技術や関連する分野の学習を効果的にするために、かなり高い確率で期待した結果が得られる実験を選んで実験をします。しかし、大学での研究(卒業研究や特別研究)は、誰もやっていない未知の領域を自分が先陣を切って切り開き開拓していくようなものです。当然、誰もやっていないので、結果もわからないし、そもそも研究仮説も手探りで実験結果に合わせて実験をするたびに修正していくような状況です。当然、期待した結果が得られないということの方が多くなります。こう書くと、おいおい私のやる実験の多くは失敗ですか?とがっかりしてしまうかもしれません。実は大発見というのは、失敗の中から生まれることが多いのです。例えば、ノーベル賞関係を見てみても次のように失敗と思われるところから大発見というお話があります。
・白川英樹先生(2000年 ノーベル化学賞) 韓国人留学生が指示を間違えて1000倍の濃度で実験。「失敗した」ともって来た生成物の価値を見抜いて、実験を続け、「高伝導性プラスティック」への発見につながった。
・田中 耕一さん(2002年 ノーベル化学賞)間違った試料を混ぜてしまったが、捨てるのは勿体ないと思って実験したら、目的のタンパク質の質量解析ができていた(MALDI TOF MS)。
・江崎 玲於奈先生(1973年 ノーベル物理学賞)不純物の濃度を上げる実験をスタッフにさせていた。「失敗しました」と出してきた非常識なデータ(不純物を増やすと電気がより通る)を探究して「トンネル効果」を発見。
だから、仮に思うような結果が得られなかったとしても、落ち込む必要はありません。
もっというと、テーマを出した先生も、アホですから、やったことはないのですから、思いがけない結果が得られる可能性があるのです。想像もしなかったけれど、期待したものではなくて、こんなすごいものが合成できたとなれば、それは大発見ですぞ!!
・全てはうまくいっている
「失敗は成功のもと」、「ローマは1日にして成らず」といいますが、期待したこととは異なる結果も、実験仮説に対するフィードバックです。結果をきちんと受け止め、新しい実験仮説を立て、次の実験に生かすことができれば、すべての実験は「うまくいってる」ことになるのではないでしょうか。何度も書きますが、多くの方が悩む失敗というのは、思い通りの反応がフラスコの中で起きなかったというだけで、では何か起きたのか?それをきちんと突き詰めていくと、実験仮説をたてなおすだけでなく、想像もしなかった面白い反応や現象、物質の新しい性質などが見つかるかもしれません。
そうすると、本当に上手くいっていないケースは、出てきた結果に落ち込み、結果に目を背け、次の実験に生かさないことかなと私は思います。
次の実験のために、新たに実験仮説をたてるには「反応させてみましたが、失敗でした」でOKとはなりませんよね。。。
こういう生成物ができていましたと示し、これはこういう理由で次のような反応機構で生成したと考えられます。そのため、次はこういうことをすれば狙いの化合物ができるかもしれません。と次の実験につなげることが大切かなと思います。
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実験がうまくいかないとは何だろう
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