赤い化合物は赤い光の吸収波長をもつか?

第2回の講義で第1回の講義の復習資料としてこのページを使います。

第1回の講義では、講義のガイダンス(どうして光化学なのかという話が長くなりましたが。。。)に加え
「熱として高いエネルギーを加えるには?」、「光として高いエネルギーを加えるには?」 という話をしました。
その説明の中で、殺菌灯(254 nm)の光子 1 mol がもつエネルギーは、471 kJ/molとなり、この値は、ほとんどの化学結合を切れる(例 C–H結合は410 kJ/mol)エネルギーであるということが理解できたのではと思います。

では、地球上の物体や生き物は、毎日、長時間、ほとんどの化学結合を切ってしまうエネルギーを太陽から浴びているのに、どうして、破壊されないのでしょうか?第2回の講義では、この疑問に加え、光があたると何がおきるのか?という話をします。

簡単にいうと、
分子は「好きな色の光」(=自分自身の吸収波長)を吸収することができますが、
分子は「嫌いな色」(=自分自身がもたない吸収波長の光)は、反射、透過してしまい吸収できません。

「赤い化合物は、赤い光を吸収するか?」というと、違います。
そもそも「物質の色」とは何か、考えてみましょう。
◯固体の物質の色
固体に光があたると、固体の物質に固有の波長の光が吸収されます。吸収されない波長の光は反射されます。人間の目には物質に吸収されなかった波長の光が届きますので、反射光の波長の色を物質の色と判断します。したがって、固体の物質の色は吸収された光の色の補色になります。
◯液体の物質の色
液体の場合は、液体を透過してきた光が人間の目に入ります。そのため、液体で吸収されずに透過してきた光の色を液体の色と判断します。

物質に白色光があたると、その物質がもっている特有の波長の光が吸収されてしまいますから、色素からはその波長の光は反射してきません。
結果としてその波長の光が欠如してしまい、補色に相当する色の光が色素から反射してきます。
つまり、化合物の色と、その化合物が吸収する光の波長は「補色」の関係になっているのです。
(補色という概念は、自分自身も、そんなことを習った記憶がないのですが、実は中学校の美術で学習済みのようです。)

例えば、トマトの赤色の色素リコピンは15 本の炭素=炭素2 重結合と14 本の炭素―炭素単結合が交互に連続した共役構造をしていて、
517nm の緑色の光を吸収しますから、補色に相当する赤色の光が色素から反射し、赤色の色素物質として見えます。
人参の赤色の色素カロチンは11 本の炭素=炭素2 重結合と10 本の炭素―炭素単結合が交互に連続した構造を持っており、450 nm の青色の光を吸収しますから、それぞれ補色に相当する黄色の光が色素から反射し、黄色の色素物質として見えます。

(このあたりの分子の構造と吸収波長の関係は、第3回の講義でします。)

普段、生活をしていると「補色」という概念はあまり意識しませんが、補色を使って、
1)白黒の写真が、カラーに見える
2)外科医の手術着は白衣ではなく、青緑色であるのはどうしてか?
という2点について、次のような遊びの動画を作成してみました。

人の目が色を感知するしくみなど、もっと詳しく知りたい人へ
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