ポスター発表のポスターをつくる前にみておくこと(その2)

ポスター発表の図の配置について考えてみよう。

美しい美的センスのある芸術的なポスター」 = 「良い研究」「面白い研究」ではありません。
しかし、発表を聞く人がみやすい配置というものがあると感じます。
今回も個人的意見ですので、異なるご意見の方もいると思いますが、今回はポスターの配置について、考えをまとめておきたいと思います。

ポスター発表を聞きにきてくれる人には、ひとりで読んで納得して去っていく人もいれば、内容を簡単に説明してほしいという人、詳しく説明してほしい人、など様々な人がいます。
ポスター発表では、聞きに来てくれる人の要望に沿って発表者が1枚のポスターで、
①「ひとりで読んで納得して去っていく人」→ みたら何をしているかわかる発表
②「内容を簡単に説明してほしいという人」→ 短く簡結にまとめた発表
③「詳しく説明してほしい人」→ 全てを説明する発表

という異なる発表をしなければならないことになり、多くの人に研究内容の面白さを理解していただくことはとても大変です。そこで、今回は、1枚のポスターの中で、①みたら何をしているかわかる発表、②短く簡結にまとめた発表③全てを説明する発表をするには、どうしたら良いか?ポスターの図の配置を考えて意見をまとめておきたいと思います。

構図を制する者はポスターを制す
次に紹介するものは、筆者がよく使用するポスターの構図です。



1.「みたら何をしているかわかる発表」のために
まず、アウトライン法(左のリンク先)を一読した上で、以下をご覧ください。
SummaryとThis workを並べます。研究背景を入れてからThis Workをというスタイルもありますが、一番上にSummaryとThis Workを並べることによって、みたら何をしているかすぐにわかるようにということに重きを置いています。また、お話の入り口(目的 This Work)と出口(結論 Summary)は内容を一致させましょう。最初〜を検討したけど、実験の結果、全く想像もしなかった別の結果が得られたなんてこともありますが、短い時間で一目みてという方には、ドラマティックに予想外のなんていう展開の面白さは伝わりません。予想外の驚くべき結果が出たとしても、This Workで神のごとき洞察力で最初から予想して狙って検討した。その結果、予想どおりの結果になったと書いて良いです。また、Summaryは、一目みたらどういう結果になったのかがわかるような論文でいうGraphical Abstractの図と論文のAbstractのような短い文章を入れ、コンパクトにまとめると良いでしょう。

2.内容を簡単に説明してほしいという人のために
口頭発表とポスター発表でスライドの順番は違う!
口頭発表では最後にお話を盛り上げて終わるという形で最後に重要な結果が来ることが多いと思います。口頭発表のように一番長いストーリーにしたがって図を順番に並べていくと、ポスターの一番最後の下の場所⑥に重要な結果がきます。しかし、ポスターを貼ると一番下はしゃがんでみないと見えにくいですし、たくさん人がいるとほとんど目がとどきません。
実は一番美味しいところは上の図でいうと⑤のセンターなのです。
この⑤のところだけで研究全体がわかるように、短いバージョンの発表をつくります。もちろん、この部分には研究のコアとなる内容がくるわけですので、補足説明となるような図や、論文のサポーティングにのせるような図は削除することになります。さらに、すでに口頭発表で作った図などを使いまわしていれると入らないことが多くなりますので、この部分だけで短いバージョンのポスター発表ができるように、図に描きなおす必要もでてきます。

3.全てを説明する発表
の短いバージョンのポスター発表におさまらなかった図を⑥の見にくい下に配置します。が研究結果の骨組であるのであれば、の内容を肉付けしていく部分が⑥となります。
ですので、説明をするときは、の短いバージョンの発表を説明する。その後に、ここで述べた〜は下のこちらに示しました〜の測定で確認しました。この仮説や考察は下のこちらに示しました〜の測定結果からも支持されています。というような形で肉付けをして説明するとわかりやすいと思います。
聞いていて、見る部分が、あっちいったりこっちいったりと大変かと思われるかもしれませんが、論文を読んでいても、これについてはサポーティングインフォメーションを見てくださいってのありますよね?あれと同じでストーリーの太い骨格となる部分の④の短いバージョンがしっかりとできていれば、サポートする実験結果が並んでいるだけですので、さほどわかりにくいとも思いません。逆に短いバージョンがしっかりとできていることで、少々説明が沢山あっても、大事なストーリーの骨格がしっかりしているので、内容を理解しやすくなるケースの方が多いように思いますし、専門外なのだけど説明を全部してほしいという人には情報過多になりにくく理解してもらいやすいと思います。

では上に記したことを意識して作ったポスター(論文発表済のもの)を例として紹介します。

真ん中には、発表のコアとなる[60]fullerene-pentaceneモノ付加体の分子集合状態にともなう蛍光に関する説明の図が配置されまとめられています。ざっくりと説明しますと、希薄溶液ではモノマー由来の蛍光がみられるが(左図)、溶液の濃度が高い場合(右図)では、濃度が高くなるにつれ分子集合状態を形成するため、モノマー発光が消光されるとともに、分子集合体の形成にともなう新しい蛍光がみられることを説明しており、タイトルにもなっている[60]fullerene-pentaceneモノ付加体の自己集合と蛍光に関する性質がまとめられていて、この部分だけで内容を説明できるスタイルになっています。
通常の口頭発表でしたら、最初に目的とする分子はこういう反応で合成したのだ。構造決定はこうやって、単結晶X線構造解析でその分子構造を明らかにしたと順番に丁寧に話をしてくと思います。注目してほしいことは、このポスターの配置法では、口頭発表のように順番に配置しているわけではないことです。しかも、短いバージョンの発表で述べる真ん中の部分には合成や構造決定の記載すらありません。これは合成方法や構造決定の部分が真ん中の話のコアとなる部分になくても、研究内容のストーリーの説明はできるためです。もちろん構造決定や合成法は学術的には重要です。下の補足事項の部分(ポスターの下の方で見栄えがイマイチな部分)に合成法などがまわされていますが、真ん中の部分で登場する[60]fullerene-pentaceneモノ付加体はこちらに示した方法で合成した。と補足説明すれば良いわけですし、どうして高濃度だと分子集合状態を形成するのか?その駆動力は何か?という点については、ドナーアクセブターの相互作用で分子集合体をつくることは理論計算からもサポートされている。また、小さな置換基の誘導体では、ジヒドロペンタセン部位とC60との相互作用は結晶中の分子配列からも実験的に確認されている。溶液中で濃度を変えてNMRを測定するとケミカルシフトが観測される。また、置換基が変わっても、電気化学的特性や吸収スペクトルには影響がないですよ。など、真ん中部分のショートストーリーに対して下の部分に掲載されている実験データーを使って肉付けをし、説明をしていけば良いわけです。

前にも書きましたが、私は化学者であって、デザイナーではありません。ポスター発表をみにくてくださる個人個人で要望が違うという中で、同じポスター1枚でどう説明すんねん!と悩んだあげくに個人的にいきついたスタイルです。配置やスタイルについては研究室毎や研究分野毎に色々なスタイルがあるかと思いますので、あくまでも、こういう方法や考え方もあるのだという程度にしてください。


ポスターをつくる前にみておくこと(その1)はこちら



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